魚類のモノクローナル抗体の研究は、まだそれほど一般化していませんが、哺乳類の抗体作製で生じる課題を解決できる可能性が期待されています。
サメやエイを含む軟骨魚類は、脊椎動物で一般的に見られる獲得免疫の仕組みを最初に進化させた生物です。ヒトとサメは約4億4千万年前に分岐進化したので、両者のタンパク質の相同性はかなり低く、マウスなどの哺乳類では取得できなかった抗体がサメによって得られるのではないかと考えられています。
この記事では、サメを利用したモノクローナル抗体作製の可能性について紹介します。
サメのモノクローナル抗体生成の技術はまだ研究段階ですが、ヒトをはじめとする哺乳類とは系統上大きく離れているので、今まで取得できなかった抗体を作製できる可能性があります。以下のようなサメの免疫機構の特徴や課題を踏まえて、研究が進むことが期待されています。
参照:最小・最長のシングルドメイン抗体VNAR│日経バイオテク
サメの仲間は、進化の過程で最初に獲得免疫に似た免疫の仕組みを身に付けた動物です。T細胞とB細胞、複数種の抗体、T細胞受容体(TCR)、主要組織適合遺伝子複合体(MHC)など、獲得免疫に必要な機能をほとんど持っています。さらにV(D)J組換えによって抗体の多様性も確保し、親和性成熟やオプソニン化などの複雑な免疫機構も備えています。
サメが保有する抗体は、IgM、IgW、IgNARの3種類です。IgMとIgWは、どちらも2本の重鎖と2本の軽鎖からなる一般的な抗体ですが、IgNARは重鎖2本だけから構成されるホモ2量体構造(重鎖抗体)をしています。
重鎖抗体は、哺乳類ではラクダやアルパカなどのラクダ科の動物でしか確認されていません。ラクダとサメは進化的には大きくかけ離れているので、両者に重鎖抗体があるのは収れん進化の結果だと考えられています。重鎖抗体はシンプルな構造で分子量も小さく、化学耐性・熱安定性に優れていることが特徴です。
軟骨魚類の場合、哺乳類に比べると免疫後に特異的な抗体が検出されるまでに時間を要します。哺乳類では数日で特異抗体が検出されますが、コモリザメを用いた研究では数カ月かかることが分かっています。
チョウザメやネコザメは、サメの中では小さくおとなしいので比較的飼いやすい魚類です。しかし、サメの中で小型とはいえ、ある程度の大きさの水槽を用意して水質管理が必要になるなど、陸生の実験動物に比べると飼育は簡単ではありません。
マウスで取れない抗体が見つかる
モノクローナル抗体作製
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IgNARは5つの定常ドメインと1つの可変ドメインを持っています。このうちの可変ドメインだけを遺伝子工学的手法により切り出した分子がVNARです。VNARは分子量が小さく、CDRの中でも結合力の高い部位であるCDR3を持っているため、結合能力や安定性、生産性などに優れていることが特徴です。
VNARの分子量は約12kDaと、抗体分子の中では極めてコンパクトな大きさです。分子量が小さいことは高い安定性につながり、高温、高圧下でも元の構造へ戻りやすいことが分かっています。
VNARは粘膜や組織内への浸透性も高く、クリアランスにも優れています。マウスでの研究結果によると、抗原に結合しないVNARの血中半減期はわずか9分です。
分子量の小ささは、バクテリアでの生産でも有利に働きます。分子量が大きく複雑な構造のIgGは、バクテリアでの発現は容易ではありませんが、VNARでは比較的可能です。
クリアランスに優れていることには、デメリットもあります。VNARを利用する場合、標的に到達する前に分解される可能性も考慮しなければなりません。
VNARは分子量が小さいにもかかわらず、長いCDR3領域を持っています。CDR3は抗原に対して高い親和性を持っているので、VNARの濃度が低い状態でも抗原への結合が可能です。
VNARは小さな分子で可溶性にも優れているため、他のタンパク質との融合も比較的簡単です。VNAR同士を結合して抗原に対する親和性を高めたり、エピトープの異なる抗体と融合して2つの抗原に対して特異性を持つ分子を生成したりできます。
サメをはじめとする魚類のモノクローナル抗体は、一般的にはまだあまり普及していません。ここまで述べてきたように、抗体作製の候補動物種としては優れた特性を持っていますが、飼育が困難であることや免疫を獲得するまでに時間を要することが課題です。現在研究が進行しているサメの特異的な抗体作製方法をいくつか紹介します。
サメの脾臓からRNAを抽出して抗体遺伝子を取得します。それを元にして構築したライブラリーをスクリーニングして、複数のサメ抗体遺伝子を取得する方法がライブラリー法です。この手法によって、今まで他の動物種では困難だったヒトのタンパク質の抗体を作製できる道が拓けました。
参照:ヒト、ウサギ、サメモノクローナル抗体の迅速作製と創薬への応用│富山大学
トチザメのIgNARのCDR3領域をランダム化したファージディスプレイライブラリーが構築されました。バイオパニング法を用いたスクリーニングによって、特定の抗原に対して陽性を示すクローンも確認されています。
参照:サメ由来一本鎖モノクローナル抗体の大量生産技術の開発と魚介類感染症治療への応用│東京海洋大学
今はまだ研究段階ですが、サメは今後さまざまな分野の需要拡大が予想されるモノクローナル抗体の有望株です。実用化されれば、他の動物では作製できなかった抗体を取得できる可能性があります。
しかし、これらの抗体の実用化にはまだ解決すべき課題が多くあります。例えば、高いコストの削減、大規模な生産方法の開発、および臨床応用における安全性と有効性の確認などが挙げられます。現在、これらの課題に対処するための研究が世界中で進行中であり、将来的には新しい治療法や診断法への応用が期待されています。
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マウスモノクローナル抗体は、取得する抗体の多様性や、親和性・特異性が限定的なこと、マウス疾患モデルで免疫染色を行う場合に問題が生じることがあることなど、いくつもの課題を抱えています。
ここではウサギ・ニワトリ・ラクダ科動物・ヒトといった4種類の動物を中心に、合った目的や特徴について詳しくまとめました。
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