ヒトの生体分子を抗原とする抗体を作製する場合、同じ哺乳類であるマウスでは抗体を産生できないケースがあります。その場合、哺乳類以外の動物種の利用を検討しなければなりません。
ニワトリを含む鳥類は約3億年前に哺乳類と分岐進化しており、マウスやラットとは異なる免疫特性を有していながら、高い免疫機能を有しています。この特徴を活かせば、ヒト・マウス間では相同性が高く抗体を取得できないケースでも、ニワトリを利用して抗体を取得できる可能性が高まるでしょう。
この記事では、ニワトリによるモノクローナル抗体作製の特徴について詳しく解説します。
マウスでモノクローナル抗体を取得できない場合であっても、ニワトリを利用すれば目的の抗体を取得できる可能性があります。免疫動物としてのニワトリの特徴を詳しく解説します。
哺乳類の抗体は、IgG、IgM、IgA、IgD、IgEの5種類です。一方、鳥類にはIgY、IgM、IgAの3種類の抗体が存在します。このうち哺乳類のIgGに相当する抗体はIgYで、ニワトリの抗体の中で大きな割合を占め、免疫で主要な役割を果たしています。
IgYは、構造的・機能的にはIgGとは異なる部分がありますが、IgGと同じようにモノクローナル抗体を生成可能です。さらに、IgG抗体に比べて抗原に対する特異性と親和性が高く、生産もしやすいなどの利点を持っています。
参照:鳥類の発現するIgGの糖鎖構造:生物種間で保存されている糖鎖と多様な糖鎖│新潟大学
ヒト・マウス間では交差反応性を示すような場合でも、ニワトリを利用すれば容易にモノクローナル抗体を作製できます。また、哺乳類のFc受容体に結合せず補体を活性化しない点も大きな特徴です。
ニワトリは家禽として長い飼育の歴史があります。飛翔力が弱く、広めのケージでまとめて飼育できるので、実験動物としても容易に管理可能です。
ただし、他の動物種と同じく、実験の内容によっては拡散防止措置をとらなければなりません。また、過密飼育や高温多湿の環境下では抗体産生能力が低下する可能性があるので、ストレスのない環境で飼育する必要があります。
参照:ニワトリを用いた抗体の作製法│九州大学大学院医学研究室
参照:[各種動物の拡散防止措置の要件]②│遺伝子研究安全管理協議会
卵を利用して抗体を作製できることは、ニワトリの大きな利点です。
鳥類では母体で生成した抗体が血液を通して卵黄中に大量に輸送され、ヒナの免疫力を向上させる母子免疫の仕組みが存在します。この仕組みを利用すれば、効率的かつ非侵襲的にモノクローナル抗体を作れます。1つの鶏卵で約80〜120gのIgYを生成可能です(※)。
※出典:ニワトリを用いた抗体の作製法│九州大学大学院医学研究室
ニワトリを用いたモノクローナル抗体作製では、マウスにはない課題も存在します。代表的な課題の1つが、細胞融合のパートナーの問題です。ハイブリドーマを作る際、マウスではミエローマ細胞を利用すれば比較的簡単に作成可能ですが、ニワトリでは適当なフュージョンパートナーが少なく、また作成効率もそれほど高くありません。
マウスで取れない抗体が見つかる
モノクローナル抗体作製
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ニワトリの特異的抗体の作製にはいくつかの方法が確立されています。以下の項目で代表的なニワトリモノクローナル抗体の作製方法を紹介します。
ハイブリドーマ法は、抗体を産生するB細胞に、無限に増殖する細胞を融合させて特異的な抗体を増殖させる方法です。マウスやラットなどでは一般的な方法ですが、ニワトリでも用いられます。しかしニワトリの場合、前述のようにマウスに比べてフュージョンパートナーが少なく、ハイブリドーマの融合効率が低いなどの問題点があります。
参照:3.ニワトリモノクローナル抗体作製およびファージ ディスプレイ技術を用いたウサギモノクローナル抗体作製 -取得困難な抗体作製を目指して-│谷本学校 毒性質問箱
参照:科学研究費補助金研究成果報告書│岡山大学
ALAgene®法は、株式会社ファーマフーズが開発したニワトリ・モノクローナル抗体の作成技術です。ALAgene®法では、まず免疫を行ったニワトリの脾臓からRNAを抽出してファージライブラリを作製した後、scFv抗体のスクリーニングを実施します。次に塩基配列の解析などで候補クローンを確定し、二価抗体へ組換えを行ったリコンビナント抗体を作ります。これまで、ヒト血清タンパク質や膜タンパク質、脂質やガン関連酵素など、数多くの抗体がALAgene®法で作られてきました。
参照:ニワトリを用いたモノクローナル抗体作製│株式会社ファーマフーズ・アプロサイエンスグループ
哺乳類と同様に、ファージディスプレイ法によってもニワトリモノクローナル抗体を作成できます。ニワトリの場合、ファブリキウス嚢や免疫脾細胞が利用されます。
ファブリキウス嚢は、B細胞の生成・増大を行う鳥類特有の器官です。哺乳類での生成方法と大きく異なるのは、鳥類にはV遺伝子、J遺伝子が1つしかない点です。VH抗体遺伝子、VL抗体遺伝子の増幅にはそれぞれ一対のプライマーしか必要ありません。
参照:ニワトリモノクローナル抗体の新展│国立医薬品食品衛生研究所
マウスでモノクローナル抗体が取得できないのであれば、ウサギ、ニワトリ、ラクダなど他の動物の採用を検討しなければなりません。それぞれの動物種にメリットとデメリットがあるため、抗体取得の目的に合わせて動物種を選択することが重要です。
抗体取得に困っている場合は、抗体作製を受託している会社に依頼するのも手です。それぞれの会社に得意・不得意があるため、抗体作製を依頼する際には、各会社のサービスや技術の内容を事前によく理解しておきましょう。
以下のページでは、抗体作製を依頼する際に知っておくべき情報をまとめています。「目的の抗体が取れない」「どこに依頼してよいか分からない」などでお困りの方は、ぜひご覧ください。
マウスモノクローナル抗体は、取得する抗体の多様性や、親和性・特異性が限定的なこと、マウス疾患モデルで免疫染色を行う場合に問題が生じることがあることなど、いくつもの課題を抱えています。
ここではウサギ・ニワトリ・ラクダ科動物・ヒトといった4種類の動物を中心に、合った目的や特徴について詳しくまとめました。
Google検索で「モノクローナル 抗体受託」と検索した結果より、モノクローナル抗体の取得・探索・作製受託を行う会社・39社を調査(2023年6月7日調査時点)。
日本抗体学会(https://antibodysociety.jp/)に所属している企業の内、対象の動物種からモノクローナル抗体を作製するサービスを提供している会社をピックアップ。
iBodyのウサギモノクローナル抗体は
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ファーマフーズのニワトリモノクローナル抗体は
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