完全ヒト抗体産生マウスとは、ヒトのIgG抗体遺伝子の全部を安定して保持するマウスです。マウス人工染色体(MAC:Mouse artificial chromosome)にヒト抗体遺伝子の全長を組み込み、本来マウスが持つ抗体遺伝子を削除しています。免疫原性の問題などを解決できるとして医薬への応用が期待されている技術です。
本記事では、完全ヒト抗体産生マウスの特徴や作製会社を解説します。
これまでの抗体作製技術は主にマウスを免疫動物として発展してきましたが、マウスにはいくつかの問題点がありました。
マウスはモノクローナル抗体の取得で、長年にわたり広く利用されてきた動物種ですが、ヒトに対して免疫原性を示すことが大きな問題です。
ヒト本来の抗体にできる限り近づけるために、キメラ型抗体やヒト化抗体などが開発されてきました。キメラ型抗体は抗体の定常領域をヒト抗体に置き換えたもの、ヒト化抗体はさらに抗原結合部位以外のほとんどがヒト由来です。しかし、キメラ型抗体やヒト化抗体では、免疫原性の問題を完全には解決できませんでした。
免疫原性を解決する手法として、トランスジェニックマウス(Tg)がさまざまなチームによって開発されました。トランスジェニックマウスとは、外来の遺伝子を宿主のDNAに組み込んだマウスです。
しかし、トランスジェニックマウスに組み込めるDNAの長さには制限があり、ヒトの免疫機構を完全な形でマウスに組み込めません。そのため、作製した抗体には、依然として親和性や特異性が限定的であったり、抗原によっては抗体ができにくかったりする問題点がありました。
マウスを使って作製したモノクローナル抗体は、ヒトの血液中では安定性が低いことが知られています。さらにエフェクター機能も本来のようには働きません。
エフェクター機能とは、補体や免疫に携わるT細胞、NK細胞、マクロファージなどのさまざまな細胞を活性化する機能です。安定性の低さやエフェクター機能の低下は、結果的に作製された抗体がヒトの体内では思ったような効果を発揮できない原因となります。
マウスの体内でヒトの抗体産生を完全に再現できることには、さまざまメリットがあります。
これまでの抗体作製技術の問題点は、免疫応答のプロセスでヒト以外の動物種に由来する部分を完全には排除できないことです。そのため、作製された抗体は、ヒトに対する免疫原性を持っていたり、親和性や特異性が低かったりなどの問題がありました。
しかし、完全ヒト抗体産生マウスは体内でヒトの抗体産生をほぼ忠実に再現しているため、免疫原性の問題を解消可能です。
完全ヒト抗体産生マウスを抗原で免疫した場合、通常のマウスの場合よりも、抗原特異的モノクローナル抗体の取得効率が高くなるという実験結果が報告されています。
現在、さまざまな病気の治療手段として、たくさんの抗体医薬品が開発されています。例えば、関節リウマチの治療薬トシリズマブや成人T細胞白血病リンパ腫の治療薬モガムリズマブは、日本で開発され世界で利用されている抗体治療薬です。
免疫原性を持たないモノクローナル抗体を安定的・効率的に作製できる完全ヒト抗体産生マウスの技術は、画期的なバイオ医薬品・治療法の開発をさらに加速させるでしょう。
完全ヒト抗体産生マウスの生産には最先端の技術が必要です。ここでは完全ヒト抗体産生マウスの生産技術に定評のある会社をご紹介します。
鳥取大学発ベンチャーTrans Chromosomicsでは、染色体工学技術を用いて、完全ヒト抗体産生マウス(TC-mAbマウス)を作製しています。
従来の染色体導入技術によって作られたヒト抗体産生マウスは、ヒト染色体の安定性が十分ではありませんでした。しかし、独自の染色体工学技術によって、マウス人工染色体(MAC)に全長約3.5Mbのヒト抗体遺伝子を組み込み、安定性が向上したマウスの作製に成功しました。このマウスを利用して作られるモノクローナル抗体は、親和性・特異性が高く、抗体の取得効率も高いという特徴があります。
完全ヒト抗体産生マウスは、抗体医薬品の開発を加速度的に進展させる可能性を秘めた技術です。今後さらに技術改良が進み、広く普及していくことが期待されます。
目的とする抗体を取得するためには、完全ヒト抗体産生マウスをはじめ、さまざまな方法の中から最適なアプローチを選択しなければなりません。特にどのような動物種を選ぶかは重要な問題です。動物の選択を間違えると、うまく抗体を取得できなかったり、取得できても親和性・特異性に問題が生じたりする可能性があります。
以下のページでは、モノクローナル抗体の取得に利用されるさまざまな動物種や技術を詳しく紹介しています。
マウスモノクローナル抗体は、取得する抗体の多様性や、親和性・特異性が限定的なこと、マウス疾患モデルで免疫染色を行う場合に問題が生じることがあることなど、いくつもの課題を抱えています。
ここではウサギ・ニワトリ・ラクダ科動物・ヒトといった4種類の動物を中心に、合った目的や特徴について詳しくまとめました。
iBodyのウサギモノクローナル抗体は
こんな目的におすすめ
iBodyのウサギモノクローナル抗体作製の特徴
ファーマフーズのニワトリモノクローナル抗体は
こんな目的におすすめ
ファーマフーズのニワトリモノクローナル抗体作製の特徴
RePHAGENのラクダ科動物モノクローナル抗体は
こんな目的におすすめ
RePHAGENのラクダ科動物モノクローナル抗体作製の特徴
iBodyのヒトモノクローナル抗体は
こんな目的におすすめ
iBodyのヒトモノクローナル抗体作製の特徴